幕末の神様〜桜まといし龍の姫〜




「譲!てめえこんなところにいやがったのか!?」




早朝から元気に怒鳴り散らしている土方さんを呆然と見やり、なぜ怒っているのか、その原因を一瞬で悟る。




そういえばまだ返していなかったなと、譲は面倒くさそうにいそいそと懐から、例の発句集を取り出すと、はいと土方さんに返した。





えらく素直に返してきた譲を土方は不気味に思い、何か仕掛けてくるのではないかと警戒していたが、譲の寂しげな表情を見て、下手な勘繰りをやめる。





そういえば朝餉の際には、譲もそうだが、総司も出ていなかったと土方は朝餉の静けさを思い出した。





二人がいないと、妙に辛気臭かったのだ。





「お前、なんかあったのか?」




さりげなく尋ねてみると、譲はただ横に首を振るだけで何も言わなかった。




いつになく大人しいと土方は腕を組み、一つ咳払いをする。





「なら、お前に一つ頼み事がある」




「頼み事?」



ようやくまともに譲が土方に顔をあわせる。



何を言われるのかと不思議そうな顔をしている譲に土方は言う。






その頼み事に譲は不服そうに唸るも、有無を言わさぬ土方の念押しに、譲は渋々頷いた。











< 248 / 261 >

この作品をシェア

pagetop