恐怖短編集
「火事だっ!」


瞬間、誰かが大きな声で叫んだ。


非常ベルがけたたましくなり響き、患者を運び出す看護婦達。


「そうだ……この病院は潰れたんじゃない、火事で全焼したんだ」



東夜の記憶は今鮮明に蘇っていた。


妹の死によって、ともにかき消されていた記憶が。


「とにかく、俺たちも逃げよう!」


急かす様に立ち上がる孝。


東夜は、美由紀の遺体を抱き上げようとし、その瞬間言葉を失った。



目の前にいるのは、数年前の茂の姿だった。


茂はまだ幼い顔をしていて、だが真っ直ぐにこちらを……、いや、美由紀を見詰めていた。


「茂……」


今の東夜の声は茂には届かない。


茂は美由紀の体を抱き上げると、そのままあの長いすへと運んだ。


「何してんだよ」
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