朝の旋律、CHOCOLATE ~Whole Lotta Love~
私は、哲と雪音ちゃんを会わせる算段に気を取られている間、遼を見ていなかった。
不意に、深呼吸をしたくなるような息苦しい感覚に襲われて、目を伏せる。
「彼氏……かぁ…。なんでみんな欲しがるのかな。私、要らないけどなあ」
洋楽聴いて。
壊れるような倒錯感に身を委ねたり。
クラシック聴いて。
沈み込むような無力感に漂ってみたり。
トランペット吹いて。
歌って。
笑って。
くるくる踊って。
それから、チョコレートがあれば、いい。
「…そ…う、なの?」
「うん。だから、哲は彼氏なんかじゃないよ」
何か、変なことを言っただろうか。
遼はひどく戸惑った顔をしている。
眼鏡が無いから、そんな顔も萌えないなあ。
綺麗な顔してるのになあ。
などと思っていれば、遼は困ったように笑顔を浮かべ、そっか、と。
前を向いて、車を発進させた。