ほどよいあとさき


「本日は、おめでとうございます。新郎の同期の相模です。

新郎の椎名くんですが、経理部という、会社の縁の下の力持ちという立場を存分に利用しながら、社内にその情報網を張り巡らし、自分の名前を売り込むしたたかさは極上で、椎名がいなければ進めることができない案件は数知れず。

住宅設計の細かい部分も勉強し、投資家さんへアピールできるものを探し出す鋭い力は群を抜いています。

逆に言えば彼に声をかけられて、投資家さんへの会社案内に掲載されれば、対外的にも認められる設計ができたということで、設計者の励みにもなっています。

一目置かれる男、余裕と自信の男、それが椎名歩なのですが。

唯一、新婦の一花さんに対しては慎重すぎるほど慎重で、彼女が傷つくことは絶対に許さず、近くからでも遠くからでもいつも見守り、大切にしています。

二人は付き合っていく中で、一年間ほど距離を置いた時期がありましたが、その間も、椎名は彼女を再び取り戻すためだけに全てを費やしていました。

どこまで一花さんに惚れてるんだ、どこまで盲目的な恋愛をしているんだ、と呆れましたが、結局その純粋な思いを叶えるために、私もほんの少しだけですが力を貸しました。

そして、その後二人は順調に愛を深め、今日この日を迎えることができたわけですが、結婚を決めた時の椎名の言葉を皆様にお伝えしたいと思います。

それは、椎名と一緒に飲んでいた時でした。

『一花をいつでも抱きしめて、愛する権利を持つ唯一の男は、俺なんだ。
俺は、選ばれた男なんだ。どうだ羨ましいだろう』

楽しいお酒の席での言葉は本音に違いないと思いませんか?

この甘い言葉をもって、お祝いの言葉にかえさせていただきます。

本日は、本当におめでとうございます」

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