ほどよいあとさき



  *   *   *



そして、歩が私たちの披露宴で誓った相模主任への仕返しは、その日から約二年後の今日、実現されることとなった。

金屏風の前に相模主任と並び、優しく微笑んでいるのは、仁科葵さん。

新入社員だった仁科さんが住宅設計部に配属されて以来、相模主任が彼女を口説いたというのが定説だけれど、其の詳しい展開については歩もよく知らないらしい。

もともと、「他人の恋愛に首を突っ込むなんておかしい」と思っている歩だから、相模主任と親しく付き合っていても、本人に詳しく聞くこともなかった。

ただ、相模主任が『奇跡』だと言って教えてくれた仁科さんとの過去からの繋がりに、歩も驚いたという。

それは、相模主任が建築士を志した中学時代にさかのぼるものらしく、私もよく知らないままだ。

歩にとっては親友である相模主任がようやく愛する女性を見つけ、その手に掴んだということは、かなりの喜びらしく。

『相模に仁科さんのことを惚気られるのが思った以上に嬉しくてさ、会社だということも忘れて仁科さんに頭を下げてしまったんだ。
相模のことをよろしく頼むっていう気持ちをこめて、挨拶したんだけど。
俺の心のどこかには、俺の父親が引き起こした事故への謝罪の気持ちも混じっていたのかもしれない。
俺の罪悪感を小さくするためだと言われればそうなのかもしれないけど、仁科さんには幸せになってもらいたいから、思わず、な』



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