ほどよいあとさき


だ、ダメだ、絶対に「仕返し」だっ。

相模課長は、苦々しげな表情を隠そうともせず、歩が絶対にまともなスピーチなんてしないとわかっているようだ。

このお祝いの席で、相模課長と葵さんが照れるような「ほんとのこと」を暴露するに決まってる。

「歩……」

余裕の笑顔でマイクの前に立った歩は会場内を見回し、まず親族席に向かって頭を下げた。

そして、一度大きく息を整えた後、歩のスピーチが始まった。

「本日は、おめでとうございます。新郎の同期の椎名です。
まず、新婦を愛して愛してどうしようもない相模、おめでとう。
葵さんを自分のものにするために右往左往しながら切ない時間を過ごしていた苦労が報われて良かったな。『建築界の至宝』と呼ばれる男が、葵さんを手に入れるために苦しんでいる様子は見ごたえがあった……」

歩はスピーチの冒頭からそんな露骨な言葉を連ねて、周囲からの注目を浴びた。

相模課長、葵さんが苦笑しながら聞いているのは当然のことながら、会場内の人々みんな、歩のスピーチに、にやにやしながら耳を傾けている。


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