ほどよいあとさき


「神田さん、この議事録を二部コピーして、一部は社長室に持っていってくれる?
残りは私の机の上に置いてくれればいいから。
……雑用ばかりでごめんなさいね。本当なら相模くんが直接仕事を教えるんだけど。明日の記者発表を控えてあいつもなかなか落ち着かないのよ」

「いえ、大丈夫です。一部を社長室ですね。じゃ、コピーしてきます」

夏乃さんから渡されたものは、昨日行われた部内会議の議事録だ。

書記をしていた夏乃さんが残業をして仕上げたらしい。

経理部では、議事録をすぐに仕上げる習慣はなくて、三日以内を目安に作成されている。

けれど、わが社の中枢と呼ばれる住宅設計部にそれは当てはまらず、即日で仕上げることが原則となっているらしい。

もちろん、社長も議事録を受け取ればすぐに目を通す。

そんな些細な違いも、私には驚いてしまうほどで、のんびりと設計部の業務を覚えるとか、相模主任のフォローをする程度の意識では、なかなかついていけない。

住宅設計部に派遣されて、はや一週間。

時間の流れの速さに驚きながらも、自分が知らないことをひとつひとつ覚えていくことに、やりがいと喜びを覚えている。

これまで携わってきた経理部での仕事が嫌だというわけではないけれど、わが社の花形部署で刺激を受ける時間は、これまでになく自分を成長させてくれるようで、背筋がぴんと伸びている気がする。






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