ほどよいあとさき


「相模くん、設計デザインコンクールの審査員になっちゃったから、それ絡みの仕事が増えちゃって。
明日もその記者発表なのよね。
あいつが自ら望んだわけじゃないってわかっているけど、仕事のしわ寄せが私達にもくるんだから、建築協会のお偉方も考えて欲しいわよね」

「あいつ……」

夏乃さんが荒い口調でそう口にした言葉に、思わず反応してしまった。

『あいつ』なんて親しげな言葉をさらっと言えるなんて、さすが同期だな。

「ああ、ごめんね。がっかりした?私、本当に口が悪くて。これが原因で友達と喧嘩なんてしょっちゅうなの。」

ふふっと意味ありげに笑った夏乃さんは、私の顔をじっと見つめた。

「神田さんに、椎名くんと別れてって言ったときも、かなり口が悪かったでしょ?」

「あ……はい?」

「ふふっ。もう、そんなに警戒しなくてもいいわよ。あの時の私は……どこかおかしかった……ううん。今更、神田さんに言い訳しても仕方ないわね。
……そんな資格もないし……」

低い声で呟く夏乃さんの真意がよくわからない。

突然椎名主任の名前を出されたり、別れたことを持ち出されたり、この話の流れに戸惑ってどうしていいのかわからない。

一年前、夏乃さんに半ば脅されるようなことを言われて、そして、歩の会社への強い忠誠心と恩を考えた私は、歩と別れた。

そうしなければ、歩は会社への恩と私への想いに苦しみ続けると思ったから。

だから、歩の言葉を受け入れて、別れを選んだ。

そのときの悲しい記憶がよみがえり、手にしている議事録を、ぎゅっと握りしめた。




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