ほどよいあとさき


自分の席に戻って、そっと視線を向かいの机に向けた。

綺麗にかたづけられた夏乃さんの机には、歩と相模主任、そして二人と同期の何人かが映っている写真が飾ってある。

相模主任と付き合っているのではないかと密かな噂がある今村さんが笑っている隣で歩と夏乃さんも並び、笑顔を向けている。

今より少しだけ若い歩の表情に、とくん、と心は弾む。

その一方で、同期会で撮ったというその写真を目にする度、微かに胸は痛む。

そのたびに、早く経理部に戻りたいと思いながら、でも歩と同じ部署に戻るのもつらくて、どうしていいのかわからなくなる。

そのせいか、『そろそろ会社を辞めてもいいかな』なんてことを考える弱い自分も顔を出す。

時間が経てば歩のことを諦められると思い、そして、会社への恩と私への想いとの間で悩む歩を見るのに耐えられなくて。

別れを受け入れたのは私なのに、一年くらいじゃ歩への気持ちは変わることはなかった。

それどころか、一緒に仕事をする中でどんどん私の気持ちは歩に引き寄せられ、別れたその日から、再び歩に恋する片思いの時間が始まった。




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