てのひらを、ぎゅっと。


ほんの数分間なのかもしれないけど、私にはすごく長いように感じた。


「…………あ、返ってきた」


携帯のバイブ音が病室に響き渡った。


き、きたよ………。


反対されたらどーしよか………。


ドキドキしながら、汗ばんだ手で私はお父さんからのメールを開く。


【お前の好きなようにしなさい。

 父さんの幸せは、
 お前が幸せなことなんだから。

 楽しめよ。父さんもまた行くから 】


不器用で何の変哲もない文章だけど……
お父さんの優しさが痛いほどに伝わってきて、私はちょっぴり泣きそうになった。


きっとふたりとも、この10数分の間にたくさんたくさん悩んだんだろう。


私は親じゃないから本当の気持ちは分からないけど、お父さんとお母さんの間に絶対葛藤はあったと思うんだ。


でも、私の気持ちを優先してくれた。


私は改めて、両親の優しさとありがたさを身をもって実感した。


「こうちゃん………今日一晩、よろしくお願いします………」


緊張しながら頭を下げる。


「俺こそ、よろしくな」


見上げたこうちゃんは、頬を緩めて優しく笑っていた。


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