魅惑のハニーリップ
「転職しちゃうと、自分からその貴重な時間をつぶすことになるんで……」

 正直、そこが一番引っかかってるところだ。

 転職して、千秋のところの仕事がきちんと出来るのかというのも、不安といえば不安。
 だけど、宇田さんと会える時間を自分から手放すことになるのが……一番の不安だ。

「それ、聖二に相談したの?」

「いえ……まだです」

「ちゃんと聖二に相談してみて?」

「はい」

「私には聖二がそれについてどう答えるか、だいたい想像つくわ」

 佐那子さんがにこにことイタズラっぽく私に微笑みかける。

「……え、どんな想像ですか?」

「今は言わなぁ~い。聖二に相談してから教えてあげる」

 ますますにこにことした笑みをたたえて、佐那子さんはその場を去って行ってしまった。
 佐那子さんは宇田さんと仲がいいから、想像がついたりするのかな?

 このことを相談したら、宇田さんはどんな反応をするのだろう?
 私にはまったく想像がつかない……

 今の私の心の中を表すと、きっと絵の具をひっくり返したマーブル模様みたいにぐるぐるになってる。

 宇田さんに相談するにも、私にはかなりの勇気が必要だ。

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