魅惑のハニーリップ
 どうやら佐那子さんは、私と和久井さんのデートのことを宇田さんには話していないみたい。
 宇田さんの耳に入っていたら、今その話が出ないはずがないもん。

 そのことに少しホッとしてる自分がいた。
 なぜだか、宇田さんには知られたくないって思ったから。

 これは私と和久井さんとの問題で、宇田さんとは関係ない。
 私が和久井さんを気に入るかどうか、宇田さんの耳には入れなくてもいい話だ。

「アイツら、遥ちゃんたちに会わせなきゃよかったよ。ったく、こんなに後から気にすることになるなんて……」

 宇田さんは最初苦笑いだったのに、だんだんとしかめっ面に変わっていく。
 なにを思って、そんな表情になっているのかはわからないけれど。

「それに、なにか他に悩み事があるんだったら、俺でよかったら相談に乗るよ」

「……ありがとうございます」

「優子ちゃんだって、佐那子だっているんだからさ。あんまり溜め込まないように」

「はい」

「あ、そうだ! これ、遥ちゃんに」

 うっかり忘れていたとばかりに、宇田さんが慌てて手に持っていた袋を私に手渡す。

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