魅惑のハニーリップ
『とにかく、一旦会社に戻っててよ』

「え?」

『デートするんなら、和久井じゃなくて俺としよう』

「でも……」

『今から急いで俺も戻るから。遥ちゃん、会社で俺を待っててよ』

 胸にズキュンときた。
 最後の“俺を待っててよ”が。
 宇田さんの声が、とてもやさしい声だったから。
 一撃で、胸を打ちぬかれてしまった。

「はい。じゃあ……会社に戻ってますね」

『和久井には、行けなくなったって断って』

「あ……はい……」

 宇田さんにしては、少し……いや、かなり強引だ。
 いつもの冷静な宇田さんからは考えられないくらいに。
 また後で電話するからと言われ、一旦そこで電話を切った。

 なぜ宇田さんの言うとおりにしてしまうのだろう……
 けど……やはり和久井さんにはきちんと断らなければ。
 カフェを出てから行けなくなったと電話をしよう。

 宇田さんの言うとおりにしたい。
 それが、今の私の正直な気持ちだ。

「遥ちゃん! ごめんね、待った?」

 カフェを出ようと思って椅子から立ち上がった時、運悪くそこへちょうど和久井さんがやって来てしまった。
 なんていうタイミングなのよ……

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