魅惑のハニーリップ
「そ、それが……待ち合わせのカフェを出ようとしたところで、和久井さんがちょうど来ちゃったんです」

「……そっか」

「でもそのとき、優子から事故の電話が来てビックリして、こっちに飛んで来ました」

「ていうか、俺の事故のことはなんて聞いたの?」

 不思議そうな面持ちで、宇田さんは私に少し笑顔を向ける。
 良かった。和久井さんとのことを誤解されてはいないみたい。

 なんて、こんなときでもそんな風に思ってしまうなんて。
 私はどうかしている。

「え……宇田さんが事故で救急車で運ばれたって」

「あー、だからビックリして飛んできてくれたんだ」

「そうです」

「オカマをほられたんだけど?」

「え?」

 宇田さんの言ってる意味がわからなくて、キョトンとしたまま固まってしまう。

「後ろから追突されたの。今日俺、一日中車で移動してたんだけど、遥ちゃんとの電話切った直後、急いで会社に戻ろうとしたら後ろからドーンって当たられた。運が悪いとしか言いようがないよ」

「はぁ……」

「けっこう強くはぶつけられたけど、そんな重症になるほどひどい事故じゃなかったんだ」

「そうだったんですか」

「なんかすごく大袈裟に伝わってて、逆に驚いた」

「え?」

「だって“二度と会えなかったら”とか言ってたからさ。まだ殺さないでくれる?」

 宇田さんは自分で言いながら、最後はケラケラと笑い出した。

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