魅惑のハニーリップ
「う、宇田さんはビールですか?」

「……ああ」

 目が合ったのに、なんだかそのまま逸らしづらくて、気が付けば私から宇田さんに話しかけていた。

 宇田さんとは以前にも、こうして何人かで飲みにきたことがある。
 今みたいなのは、前にもしたやりとりなのに。 
 なぜか今日は彼の雰囲気が違う気がした。

「遥ちゃんは酒が強くないんだから、一杯だけね。あとはソフトドリンクにしなきゃダメ」

 にっこり笑いながら宇田さんが説教臭く言うのも、いつものことだ。

「大丈夫ですよ、遥ちゃん酔ったら俺が送っていきます」

 隣にいた和久井さんが、宇田さんの言葉を聞いて割って入ってきた。

「それが一番危ないんだよ!」

「え、先輩それどういう意味っすか?」

「そういう意味だよ! それしかないだろーが!」

 斜め前にいる和久井さんのことを、手元にあったメニュー表で宇田さんが軽くはたくフリをする。

「俺、そんなに危ない男じゃないっすよ!」

 笑いながらも、心外だとばかりに和久井さんが宇田さんに反論する。
 そして、違うからね、と私のほうにバツが悪そうに微笑んだ。
< 6 / 166 >

この作品をシェア

pagetop