魅惑のハニーリップ
 時間の経過と共に話が盛り上がり、場が楽しい雰囲気になった。

 気付いたけれど、佐藤さんは体育会系で体つきもかなりガッチリしていて、よく喋るムードメーカーみたいな人だ。
 話も面白くて、お腹がよじれそうなくらい笑える。

「宇田先輩はズルいっすよね! こんなかわいい後輩と飲んだりしてるんなら、もっと早く俺たちも連れてきてほしかったっすー!!」

「お前らはすぐに下心を出すからなぁ。そんなヤツら、危なくてやすやすと紹介なんてできるかよ」

「言い過ぎですよ! てか、出会っちゃった後は恋愛は自由なんじゃないっすか? いくら先輩でも、個人的な恋愛に口出しはどうかと思いますけどねぇ」

 佐藤さんが口をとがらせて不満を言うのを見て、宇田さんがあきれたとばかりに顔をしかめた。

「あのなぁ、このふたりは営業部じゃなくて、佐那子の部署の後輩なんだよ! 同じ後輩でもお前らとは違って大事なんだ!」

「ははっ! 先輩、やっぱ佐那子さんのこと好きだったんですねー。でももう望みはないっすよ。ライバルがあの人じゃね」

「うるさいよ。佐那子のことなんて、とうに諦めたわ」

 後輩たちにからかわれて、彼はキュッと眉間にシワを寄せた。
 そして、不機嫌を払拭するかのように、ジョッキに半分くらい残ってたビールを一気にグビグビ飲み干す。

 わかっている。宇田さんは、佐那子さんが好きだ。
 同期として仲がいいだけだと装っていたけれど、周りはみんな知っていた。

 宇田さんの佐那子さんを見つめる視線は、私が去年、恋心を抱いた人へ向けたものとまったく同じだった。

 そして先ほど、佐藤さんが“ライバル”と呼んだその人が、

 ――……私の好きだった人だ。

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