魅惑のハニーリップ
「いやいや、先輩はけっこうイケてるんですから、もっとガンガンいけば、すぐに彼女なんていくらでもできますよ」

 酔っ払った佐藤さんが、ガハハと笑いながら冗談めかしてそんな風に言う。

「いくらでもって……大きなお世話だ! 俺は何人もいらないんだよ。好きな女は、ひとりでいい」

 私もそう思う。大好きな人はひとりだけでいいって。
 重いって敬遠されるかもしれないけれど、全エネルギーを注げる人に出逢いたいと思う。

「どうしたの? 酔っちゃった?」
 
 ボーっとしていたら、隣にいた和久井さんに声をかけられた。

「あ、いえ、大丈夫です」

「でも、顔赤いよ?」

「え?」

 和久井さんの大きな左手が急に飛んできて頬に当たる。
 その突然すぎる行動に、思わずフリーズしてしまった。

「おい、触るな!」

 呆然としているところに、宇田さんが睨みつけるように和久井さんに注意してくれた。

「なんか先輩、お父さんみたいですね」

「悪かったな、お父さんで。でもまた触りでもしたら、マジで怒るぞ!」

 宇田さんが注意してくれたことに嬉しいと思う反面、私が後輩だからなのだと、その理由にすぐに気付いた。

 私が、”佐那子さんの”後輩だからだ。

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