魅惑のハニーリップ
「宇田さん、ここ……オフィスです」

「ん? 知ってるよ」

 ハニかんで笑いながらも、宇田さんは戸惑う私にもう一度軽くキスを落とした。

「甘い」

「……へ?」

「やっぱり遥ちゃんの唇は甘い」

「う、嘘ですよ! 今まで仕事しててなにも甘いものなんて食べてないです!」

「でも甘いけど? あ、遥ちゃんの唇はきっといつでも甘いんだな。ずっとキスしていたい甘さだ」

 クセになる、とでも言いたげな宇田さんは、冗談っぽく未だにハニかみ笑いをしている。
 私はどうにも恥ずかしくなってきて、一気に頬を赤らめた。

 宇田さんが、こんなに甘いことを何度も言ってくれる人だったなんて初めて知った。

 なんだかみんなが知らない宇田さんを、私だけが知っている宇田さんを……垣間見れて本当にうれしい。

「俺さ……月末に出張があるんだ。三日間くらい。例のS商事の新商品発表会の準備があって」

 S商事の仕事の規模は、普通の得意先と違ってかなり大きい。
 私も販売促進部として、S商事がらみのサポートをしたことがあるから知っている。
 もちろん、営業部は成績トップの宇田さんが、今回のプロジェクトのチーフだ。

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