こっち向けよ
リビングの開いたドアを見つめていた舞は、名前を呼ぶとこっちを向いた。
「愁。」
俺の隣に昔から居る舞として、背筋を伸ばし、顎を引き、凛とした声で俺の名前を呼んだ。
つられて居住まいを正す俺。
それを確認した舞は、ニコリと微笑んだ。
俺の好きな笑顔で。
「きっと、必ず言える日が来るから、今は何も言わないよ。」
そう言って、ソファの端から端に、俺の隣に座り直した。
なんのことを言っているのか、わからない訳じゃ、ない。
でも、それとは思い切れない。
あやふや過ぎる“幼なじみ”というハッキリした関係を、破るのか?
「ただ、ちょっと待ってて。かな?」
絶句する俺の手を両手で包むと、そのまま上に引っ張られた。
次の瞬間、
指先に軽く唇が触れた。