トイレキッス
「衣装はまだか?」
校門の前に立った仁さんが、いらだった声をあげた。まわりにいる他の部員達は、不安げに顔を見合わせている。
本番まであと二十分をきっていた。
いま体育館ではブラスバンド部が演奏をしており、にぎやかな曲が校門まで届いてくる。その明るいメロディを聞いて、部員達の顔にますますあせりが浮かぶ。
やがて音楽がやみ、拍手が鳴りひびいた。
ブラスバンド部の演奏が、予定よりも早く終わってしまったようだ。
部員達はざわめいた。
「嘘やろ?なんでこんなに早よ終わるんで」
「とりあえず、舞台装置の組み立てだけでもやっとこうや」
「あかんわ。麻見がおらんと、どういう風に設置すればいいかわからん」
「マジけ?」
「くそ、どうすればええんで」
そのとき、一台の軽トラックが走ってきて、部員達の前に止まった。
その軽トラックの窓から、金髪の若い男が顔を出して、面倒臭そうに仁さんに話しかけた。
「なあ、おまえら、ちょっとこの学校の演劇部のやつを誰か呼んできてくれんか」
「演劇部は、おれ達ですけど」
仁さんが言った。
「ああ、そうなんか。おまえらの芝居の衣装、運んできたで。荷台に積んでるけん、さっさと持っていってくれ」
部員達は首をかしげた。仁さんが聞いた。
「あの、どうしてあなたがおれ達の衣装を運んできてくれたんですか?」
男は顔をしかめて言った。その顔には、いくつか青痣ができていた。
「おまえらの仲間に頼まれたんよ。無理矢理な。衣装を学校まで運んでくれって」
すぐに洋平のことだとわかった。