トイレキッス


「それで、そいつはどうしたんですか?」


仁さんは、眉間にしわをよせながら聞いた。


男の言う通りなら、洋平も一緒に軽トラックに乗せてもらって来るはずだ。裏方の仕事があるのだから。しかし見たところ、軽トラックに洋平の姿はない。助手席にも、荷台にも、誰もいない。


「ああ、それなんやけどな」


男は眉間にしわをよせて下を向いた。


部員達は息を呑んだ。誰もが嫌な予感を顔に浮かべている。


「麻見に、何かあったんですか?」


仁さんがつめよると、男は下を向いたまま頭をかいて言った。


「そうか、こいつ、麻見っていうんか。おい、麻見君、学校に着いたで。ええ加減離してくれや」


「え?」


仁さんは窓から運転席をのぞいて、男の視線をたどってみた。


運転席の床で、泥まみれになった洋平が男の足にしがみついていた。


「ああ?ほんまに着いたんやろな?もし嘘やったら、おれはこの足を一生離さんけんな。どんなに蹴ろうが殴ろうが離れんのはさっき証明したやろ?もし、はがしたとしても、おれをひいたことをネタにしてゆすったるけんな。ナンバー覚えてるぞコラ。ほんまに学校に着いたんか?」洋平は顔をあげた。「あ、仁さん」


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