トイレキッス


ミツキの家は、神社の裏にある木造の住宅だった。


玄関から中に入ると、落ち葉のような匂いがした。


板張りの廊下を進み、ミツキの部屋に案内された。


ミツキの部屋は、地味な六畳間だった。家具はどれも色あせており、畳も少しいたんでいる。まるでお年寄りの部屋だ。


しかしどんなに地味でも、ここはミツキが生活している場所なのだ。


洋平は緊張しながら足を踏み入れた。


「もう、お昼やけん、おなかすいたやろ。なんか食べ物持ってくるけん、ちょっと待っててな」


そう言ってミツキは部屋から出ていった。


ため息をついて、洋平は窓際に座った。


窓の外を見ると、物干し竿に、たくさんの皮をむいた柿が、ひもで結ばれ、吊るされていた。干し柿用の柿だ。一月になると、実がしぼみ、色が黒ずんで、濃い甘さの干し柿ができあがる。


洋平の家でも、干し柿は作られていた。正月になると、できあがった干し柿は、おせち料理といっしょに食卓に出されるのだ。


ミツキの家では、どうしてるんやろか?


そんなことを考えたとき、段ボール箱をかかえたミツキが部屋にもどってきた。


「こんなものしかないんやけど、ええかな?」


そう言って、洋平の前に箱を置いた。その中には、いろんな種類の菓子パンが入っていた。


「ええよ、ありがとう」


洋平は、箱の中からクリームパンを手にとった。ミツキは、少し迷ってから、ジャムパンを手にとった。袋を破り、ふたりでもしゃもしゃとそれを食べた。


「昨日言ってた、芝居のビデオって、どんなんな?」


二個目のパンにかぶりつきながら洋平が聞くと、ミツキはジャムパンを口にくわえたまま立ち上がり、本棚から一本のビデオテープを抜き出した。


「ほえあえ」


「ちゃんと食べてからしゃべり」


ミツキはジャムパンをのみこんだ。


「これはね、昨年の文化祭で、仁さんがやった一人芝居を撮ったものなんよ」


「部長が?」


思わぬ名前が出てきたものだ。


「わたし、中三のときに、その文化祭でそれ見たんやけどね。とにかくすごいんよ」


満腹になるまで菓子パンを食べたあと、ふたりはさっそくビデオを見ることにした。


テレビの上に置かれたビデオデッキにテープをさしこみ、ミツキは再生ボタンを押した。






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