トイレキッス


「どや、川本との関係は進んだんか?」


翌日の放課後、部室で会った途端、三田村がいきなり聞いてきた。洋平が素直に昨日のことを話すと、あきれた顔で、情けないのうと言われた。


「おまえそんな調子やと、一生告白できんなるぞ」


返す言葉がなかった。


ミツキは昨日のことを気にしていないのか、部室で会うと、ふつうにあいさつをしてくれた。洋平も、内心の緊張をおさえながら、ふつうにあいさつを返した。


屋上での練習中、洋平はいつものようにミツキを観察していた。すると、ミツキが何度も仁さんに、演技についての質問をしていることに気がついた。
昨日の不安がよみがえってきた。
洋平は、隣で座って文庫本を読んでいる藤沢に声をかけた。



「藤沢先輩」


「ん?」文庫本をとじて、藤沢は顔をあげた。「何?」


「先輩は、部長のこと、どう思います?」


「どう思うって?」


「恋愛の対象として、どうかなと」


「は?」困惑した表情になる。「なんでいきなりそんなこと聞くん?」


「いや、その、ふと思っただけでとくに意味はないんすけど」


「うーん、そやね。女子部員には人気あるみたいやで。しっかりしていて、男らしいけんね。もてるのも無理ないやろ」


「そうですか」洋平の声は暗くなる。「藤沢先輩も部長のことを?」


藤沢は平然と首を横にふった。


「わたしは、ああいうのは、あんまりタイプやないけん」


「へえ、じゃあ、どんなのがいいんですか?」


「それは」
と言いかけて、藤沢は口をとじた。そしてなぜか洋平を見て顔を赤くした。
そのとき、仁さんの大声が屋上にひびきわたった。
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