トイレキッス


「よし、これから、おれがいま思いついた特別練習をおこなう」



それを聞くと、部員達の顔がいっせいに青くなった。


「あ、仁さん、おれ風邪気味やけん、早退するわ」


そう言って走り出そうとした、三田村の腕を素早くつかむと、仁さんは有無を言わさぬ口調でどなった。


「それじゃあ、みんな、いまから商店街に行くで」




部員達は荷物をまとめると、ならんで校舎を出た。なんか遠足みたいやな、と洋平は思った。
歩いている間、部員達は処刑を待つ囚人のような顔をしていた。


「特別練習って何なんですか?」


洋平は前を歩く三田村に聞いた。


「見りゃわかる」


三田村は力無くつぶやいた。




ちょうど夕方なので、商店街は晩御飯の材料を買うおばさん達でごったがえしていた。
店のオヤジの威勢のいい掛け声や、世間話をするおばさん達の笑い声が、あたりを飛び交っている。


部員達は、商店街の真ん中あたりで足を止めた。
突然あらわれた高校生の集団に、おばさんや店員達はけげんな目をむけた。
仁さんはその様子を見て、満足そうな笑みをうかべながら言った。


「いまからひとりずつ、ここで何かやれ。そしてまわりのひと達を楽しませろ。うまく楽しませることができたやつは今日はもう帰ってもええ。できなかったやつは、できるまでずっとここにおれ。逃げるやつは退部じゃ。よし、始め」





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