トイレキッス


そのとき窓側に座っていた藤沢がゆっくりと立ち上がった。部員達がそれに注目する。


「おい、どしたんで?」


仁さんが聞くと、はっとして藤沢は周囲を見回した。自分が立ち上がったことにおどろいている様子だった。そして洋平と目があうと、あわてて顔をそむけた。


「あの、ごめんなさい。わたし、ちょっと気分が悪くなってきたけん、ちょっと早いけど帰らせてもらうわ」


早口でそう言いながら、藤沢は座敷から降りて靴をはいた。


「送っていくわ」


仁さんも座敷を降りようとすると、藤沢は首を横にふった。


「ええよ。わたしの家、ここから近いけん」


「でもな」


「ええって、ええって」


仁さんをふりきるようにして、藤沢は急いで自分のぶんの料金を払うと、小走りで店から出ていった。


「何なんやろの?」


三田村が首をかしげた。


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