トイレキッス
土曜日の夜九時頃、自分の部屋で無意味に寝転がっていると、母親に呼ばれた。
「洋平、電話」
「誰?」
「高橋っていう男の子」
仁さんだ。
洋平は起き上がって部屋を出ると、電話を置いてある玄関へむかった。
受話器を耳にあてて、もしもしと言うと、受話器の向こうからため息が聞こえてきた。
「もしもし、仁さん?」
「え、ああ」あわてた声だ。「麻見か?」
「はい、あの、何の用ですか?」
「ああ、実はな、その」
なんだか様子がおかしい。
「どうかしたんですか?」
「その」また、ため息だ。「単刀直入に言うぞ」
「はい」
「単刀直入に言うけん」
「わかりましたから、早く言ってください」
ゆっくりと息を吸ってから、仁さんは言った。
「三田村がなあ、事故ってなあ、死によった」
「はあ、え?」
「死によったんじゃ」重いため息。「夕方いっしょに道歩いとったら、でかいトラック走ってきて、そんで、三田村、ひかれて。救急車呼んで病院に連れてったんやけど、遅くて、手遅れで」
だんだんと仁さんの息が荒くなってゆく。
洋平は頭の中がしびれたような感じになった。仁さんの言葉が嘘や冗談ではないことがわかったが、実感がわいてこない。
もう一度ため息をもらしてから、仁さんはつづけた。
「おれ、いま三田村の両親といっしょに病院におるんやけどな。なんか三田村の親父さんが、おまえに話があるんやと。それで、こんな遅くに悪いんやけど、いまから病院に来てくれんか」
「あ、はい」
仁さんは病院の場所を告げると、すぐに電話を切った。