七夕レイニー
 にっこりと笑って頷く彼。
ううん…どういう対応をしていいのかわからなくて前の三人に目を向けてみるも、こんな時だけ会話で盛り上がっている。

目力を込めても雨が邪魔をする。


「それはね、会えてとても喜んだ二人の嬉し涙なんだよ」

「!」


 盲点。いや物は言いよう? なんにしてもそんな考えが浮かぶとは。


「そんなにびっくりしないでよ。ちゃんとその意味もあるんだよ?」

「う、うん」


 もし、そうだとすれば、雨が嬉し涙で、雲が邪魔者から二人を隠すヴェールなら、とてもとてもロマンチックな話だ。

 すごくすごく、いい話だ。でも…。
私が七夕を気にしていた理由は、それとは違う。
忘れてしまっているくせに、それだけははっきりとわかった。一体、どういうことなんだろう。


「突然、こんなことを言ってしまうのは、凄くおかしいことだと思う」

「え?」

「でも、これだけは言わせて。今日の雨ってね、僕にとっての催涙雨なんだ」


 あっけにとられて私は思わず足を止めた。二人がいるにはとても小さな小さな傘の中で、彼は私をじっと見つめる。


「それって……どういう…」


 助けを求めようにも、三人は気づかずに先に行ってしまう。
声なんて弱いものは雨が遮り落とす。


 傘の中、たった二人きり。


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