「視えるんです」
そこまで言った雨宮さんは、小さく息を吐き出したあとにまた言葉を続けた。
「放っておいても害はないと思うが、『上』へ導いてやった方が気分的にはいいだろうな」
「うん」
「この先は俺には出来ん。 お前がなんとかしろ」
「わかってる」
そんなやり取りのあと、翔先輩はふふっと笑った。
「今日の雨宮は、ビックリするくらい喋ったな」
こんなに喋ってるのを見たのは初めてだ。と、言葉を続ける。
それに対し、雨宮さんは無表情で応えた。
猫だから、な。と。
「猫、だから……?」
思わずそう聞いてしまった。
けど……私が喋ること自体不快なのか、雨宮さんはまたあからさまにイヤな顔をする。
だけどそれでも、ゆっくりと答えを言う。
「昔、オスの猫を飼っていた。
俺のことをわかってくれる、唯一の友達だ」
「唯一の、友達……」
「動物っていうのは、人間よりもフィルターが薄い。
だから人間に視えないモノでも彼らは視ることが出来ている。
俺が視ているモノをわかってくれる、唯一の存在だった。
言葉は通じないけれど、それでも心は繋がっている。そんな気がしていた」
……そうか。
だから、『猫だから』なんだ。
雨宮さんはきっと、トイレに居る猫と自分が飼っていた猫を、重ね合わせているから……だからこそ、このまま放っておきたくないんだ。
「……雨宮さんは、優しいですね」
冷たい感じのする人だと、思っていたけど……でも本当は、凄く優しい人なんだ。と思う。
それを微笑みながら言ったら、雨宮さんは私をジッと見て、ポツリと言う。
「……そう思うのなら、『優しい俺』に体を貸せ」
「う……それは、ちょっと……」
「何故だ? 優しいと、思うんだろう?」
ニタァ……と、久々に怖い顔で詰め寄る雨宮さん。
うわっ……雨宮さんの後ろに、真っ黒いオーラが……!!
ヒヤリ、背中には冷たい汗が流れる。
……が、そばに居る翔先輩は、そんな私たちのやり取りを見て微笑むだけだった。