「視えるんです」


先生にしがみつく女を抱き抱えるようにして言う、幽霊。

無表情な顔、愛想のない言葉遣い。


そこに居たのは、紛れもなく雨宮さんだった。




「あめみや、さん……」




普段と変わらないその姿に、涙がポロポロとこぼれ落ちる。

そんな私を見て心底イヤそうな顔をするのも、全然変わらない。

……雨宮さんが、ここに居る。




「どこ行ってたんですかぁっ……!!
何も言わずに消えちゃうのかと思って、私っ……私っ……!!」

「本田の体のところだ。 アイツはまだ眠っているから、誰かが体を戻してやらなくちゃいけなかったんだ」

「それならそうと、声をかけてくれたらよかったじゃないですかぁっ……!!」

「……とにかく、だ。 お前の体を貸してくれないか」


「絶っ対イヤですっ……!!」

「……おいコラ。人が頭を下げて頼んでいるのに、なんだよその返しは」




呆れ顔で私を見てため息をつく雨宮さん。
ていうか、頭下げてないじゃないですかっ!! というツッコミは置いておいて。

涙を拭いながら、静かに言う。




「……この女の人を、『上』へと送るんでしょう?
そしてそのあと、雨宮さんも……」

「あぁ、そうなるな」

「……だからダメなんです。 私……私は雨宮さんと、離れたくありません」




幽霊だとわかっていても。
『上』へ行った方が幸せなんだとわかっていても。

それでも私は、雨宮さんと離れたくなかった。


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