「視えるんです」


………

……




薄暗い道を、翔先輩と進む。

私の手をしっかりと握る先輩は、学校から少し離れたところで小さく言った。

フィルターの話なんだけど。と。


その言葉でさっきのキスを思い出してしまい、
顔が赤くなる。

でも先輩の言葉に続くのは、さっきのことではなかった。




「志緒のフィルターを外すきっかけになったのは、俺のせいかもしれない」

「え?」

「ほら、空き教室で。 俺、キスしちゃったじゃん」

「あ……はいっ……」




空き教室で、私と先輩はすぐ近くで見つめ合い、ごく自然と、キスをしてしまった。




「あの時、俺の力が影響してしまったんじゃないかと思うんだ。
コミュニケーション……それが本来のとは逆に働いたのかもしれない。
まぁ、憶測でしかないけど。 でも、出会う前と後とじゃあ、違うだろ?」

「あー……そう、かもしれません」




先輩と出会ってから、私は色々なモノを視るようになってしまった。

そのきっかけとなってしまったのが、あのキス……。

そう考えると、なんとなく説明がつく。




「……さっきので、今度は逆に俺が視えるようになっちゃうかもな」

「えっ……? あっ……ど、どうしましょう……」




せっかく力が無くなったのに、私のせいで、また先輩は視えるようになってしまうかも……。

そんな風に思ったら、とてつもない不安が襲ってきた。

けれど先輩は、ふっと笑って私を見た。







「荷物は全部置いてきた。 雨宮がそうさせたんだから、多分大丈夫だよ」

「そ、そうでしょうか……」

「うん」




……それなら、いいんだけど……やっぱり不安だな……。


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