「視えるんです」
「あれっ」
ーー……翔先輩、寝ちゃってる。
スースーと気持ちよさそうな、無防備な顔。
「なんだ、狸寝入りか?」
「……いえ、完璧に寝てます」
トントン、と先輩の肩を叩いたり揺らしたりするけれど、まったく起きる気配なし。
それどころか、車の揺れでこっちにもたれ掛かってきた。
「おーおー、見せつけてくれちゃって。
つーか、普通は女がもたれ掛かるもんだがなぁ?」
「な、何か、よっぽど疲れてたんだと、思います……」
「で、どうすんだ? そのままにしとくのか?
イヤなら、そっち側に押してやりゃあいいと思うが」
ニヤリ、鏡越しに笑う先生。
そんな笑顔に、また殴りたくなる衝動が襲うけど……。
「……このままで、大丈夫です」
……素直に、そう思ったから言う。
このままで大丈夫。
翔先輩に密着されたままで、大丈夫。
いや。
むしろ、このままで居たい。 先輩を、そばに感じていたい。
顔が赤くなるのを感じながらも、先生に『大丈夫』と言った。
「いいね、フィルターを貼るにはそういう触れ合いが大事だ」
「……え、あの……キスじゃなくても、大丈夫なんですか……?」
「おう、なんだっていいんだよ。
人と人との触れ合い、スキンシップ、コミュニケーション。
気持ちがこもっていればなんだって大丈夫だ」
……えぇ……?
じゃあ先輩は、何故にあの時キスを……?