ONLOOKER Ⅴ


夏生に続いてある角を曲がると、正面に大きな建物が見えた。
大きなといっても、悠綺高校の各校舎とそう変わらないくらいだろう。


「あ、こんな近かったんだ……」
「それでね、ピアノのそばに、写真が沢山貼ってあるのね。きっとそのステージで演奏した人を記念に撮ってるにょろ」
「ふーん」
「その中にね、十年くらい前の日付が入った写真があったのよ……ピアノの前に座った、男の人。その写真に、サインが入ってたにょ。……『オキ セイイチ』って」
「……え?」


その時夏生が、はじめて反応らしい反応を返した。
振り返った友人に、恋宵は続ける。


「優しそうで、かっこいい人でね、准乃介先輩にそっくりだったにょろ」


いつも通りのふざけた口調で、だが恋宵の大きな丸い目は、真剣な色を帯びていた。


「その顔。……なっちゃんはやっぱなんか、知ってるのにゃあ?」


そんな彼女の表情に、直姫でさえわずかに目を丸くした。
なんのことを言っているのか、と聖を見る。
聖は、恋宵の横顔を直姫を見比べてから、曖昧に首を傾げた。


「いや、」


夏生が口を開く。


「知らないよ、なんにも」
「……ほんとに?」
「俺が今まで、あんたに嘘吐いたことあった?」
「ないにょろ……黙ってたことはいっぱいあるけろ」
「今、知らないって言ったでしょ」


「むう」とも「うう」ともつかない声をあげて、恋宵は口を閉じた。

直姫が丸くした目を、驚いたように瞬かせる。
恋宵が夏生にこんなふうに食い下がったことも、夏生が恋宵に言い聞かせるように話したことも、意外だったのだろう。

確かに、これが恋宵じゃなかったら、なんの反応も返さずに無視しているか、にこりと笑ってはぐらかしているところだ。

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