ONLOOKER Ⅴ


そんなわけで、たった一枚の原稿を受け取りに行くだけというこのお使いを、直姫は非常に憂鬱に考えていた。
歴代の生徒会役員は冷蔵庫やソファーベッドという我が儘を許されてきたが、自分なら間違いなく敷地内の移動用になにかしらの乗り物を提案すると、直姫は常日頃思っている。

そんなことを考えながら噴水へと差し掛かった直姫は、反対側に見慣れた姿を見つけて、声をあげた。


「あれ、紅先輩……と、」


紅は、片手を軽くあげて挨拶をする。

今日も、少し部活に出てから生徒会室に来ると言っていたはずだ。
剣道部をメインに、時々弓道部や空手部などにも助っ人として顔を出したりしているのだ。

だが、弓道場は北校舎と西校舎の角に当たる場所にあるし、剣道部と空手部が使っている道場は、そのさらに外側に位置する。
なんにせよ、彼女が南校舎のほうから歩いてくるのはおかしいのだ。

はじめ紅の姿を見つけた直姫は、職員室に用でもあったのだろうか、と思っていた。
だが彼女の横で一緒に歩いている人物を見て、その考えは捨てた。


「あっ、オカマのにーちゃん」
「オカマじゃありません。」


目元だけで愛想笑いを浮かべて、直姫は答えた。
沖谷浩太郎は、准乃介にそっくりな顔で可愛らしく笑う。
紅はその肩に手を置いて、「鍵を忘れたらしい」と言った。


「また?」
「またじゃねーよ! たまたまだもん」
「へえ」

< 40 / 71 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop