賭けで動く恋
モデルと秘密

約束のモデル初日。
10時5分前に鳴ったインターフォンに「行ってきます」とお母さんに声をかけて玄関を開けた。

「こんにちは、恵実さん」

男性にしては珍しい深紅の着物にいつもの黒い羽織を着た神谷さんの艶のある声と微笑みは、カフェで思った通り慣れる日はこない気がする。

苦笑する私の手をとって車道側に立った神谷さんはゆっくり歩き出しながら私の着物を褒めてくれた。

「今日の着物も素敵ですね。若紫の地色が恵実さんの優しく雰囲気にとても合っています」

「ありがとうございます」

若紫の地色に白兎の小紋はお気に入りの1枚だから褒められて苦笑から自然な笑顔に変わった。

「神谷さんも
「淳」

「え?」

私の声を遮って自分の名前を口にした神谷さんに首を傾げる。

そんな私に神谷さんは有無をいわさない笑顔で私を見下ろした。

「苗字ではなく名前で呼んで下さい」

「でも、神谷さんの方が歳上……ですよね?」

今更ながら私達はお互いの名前と職業以外何も知らない。
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