ダ・ル・マ・さ・ん・が・コ・ロ・シ・タ 【完】
「……ヤベぇ。時計、マジでほしかったんだ! しかもこのブランド!」
「本当!?」
「あぁ、本当」
なんて口では言ったけど、実は先月奮発してバイト代をはたき、ちがうモデルを買っていた。
……今日つけてなくてよかった……。
内心胸をなでおろす。
「喜んでくれて、私もうれしい!」
大役を果たした安堵感からか、薄く涙を浮かべる沙奈。
自分自身が喜ぶことより、沙奈の笑顔を見られることが、なによりの贈り物。
こういう嘘なら、神様もきっと許してくれるはずだ。
俺は笑顔を浮かべたまま、その時計を腕にはめる。
「やーっと私の出番ね!」
母がニンマリしながら豪華な料理を運んできた。
「かぁさん……」
「あら? いつもみたいに『ママ』って呼びなさいよ」
「「ぇ!?」」
お得意の冗談を、全員が真に受けた。
「まさか」
「敬太って」
「マザコン!?」
「よ、呼んでねぇーし! 早く出てけ!」
「ヤダヤダ! 私もパーティーに参加する!」
「はい、残念でした!」
――バタンッ。
無理やりドアを閉める。
「「ハハハハッ」」
それから6人で輪になって他愛もない話をした。
いつしか話題は最近のマイブームへ。
すると、佑美がカバンから携帯を取り出した。
「ねぇねぇ、昨日こんなの見つけたんだよ」
自慢げにスマホの画面を輪の中心に差しだす。
これが、”きっかけ”だった。
「なんだこれ!」
「超ウケる」
それを見て、いつも笑いを取る側の由香里と、常に冷静沈着なはずの川本くんが、ふたりして大笑い。
「あたし、都市伝説好きじゃん?」
「いや知らんし!」
「昨日ヒマすぎてさ、なにげなく見たやつ、画面メモしちゃった」
意外にも食い入るように画面を見つめる川本くんと沙奈。
「……禁断のゲームって書かれてると、逆に興味をそそられるよな」
「うん」
「敬太もこういうの好きでしょ?」
佑美が少し画面の角度を変える。
「あぁ!」
俺は心を躍らせていた。
都市伝説にではない。
画面をのぞきこむことで、沙奈と顔の距離が近付いていたからだ。