ほんとの笑顔が見たかったんだ
「ソラ…。俺、ソラに迷惑かけてばっかだな」

「迷惑かけられた覚えないけど?」

「…ソラ、男前過ぎ」

「こんな時に冗談言うなよ…」

ズルズルと鼻水をすすって、龍星は冗談を言って、無理矢理笑った。

そして、涙をもう一度手でゴシゴシと拭い、ぼんやりと前を見つめた。

「俺、こっちに来てさ、怖いくらい楽しい事ばっかりで…忘れかけてた幸せってやつ…思い出してた。でも、俺には一生向き合わないといけないものがあるんだ。それから逃げてるんじゃないか…ソラや楓さんやじゅなちゃんに甘えてるんじゃないかって…考えてた。最近。でも…今日…めちゃくちゃ楽しくて…俺…帰りたくねぇって思った。ガキみたいだって自分でも呆れる。俺は…本当は幸せにはなれないはずなのに…。幸せになったらいけないはずなのに…。でも…今ある幸せ、失いたくない…」

溜まっていたものをいっきに吐き出すかのように、龍星は話した。

根本的な原因はまだ分かんねぇ。

"向き合わないといけないもの"っていうものが、いったいなんなのか分かんねぇ。

でも、今話せる事を精一杯に龍星は話してくれた。

俺は、弱音も愚痴も…今はしっかり受け止めようと思う。

「お前の過去や、誰に何を言われたとか、お前が向き合わないといけないものとか…俺には分かんねぇ。けど…"幸せになったらいけない"とか言うな。そんな事言ってたら、一生心から笑えねぇだろ。」

こんな事を言った自分に少し驚いた。

俺、今まで他人にこんな事…言った事ねぇもんな。

俺にこんな事を言わせる位、龍星は俺にとって大切な友達って事なんだな。

「ソラ…お前マジで男前過ぎ。大好き」

「真面目に話してんだからちゃんと聞けバーカ」

お互いに、顔を見合わせて少し笑った。

でも、龍星がこうやって冗談言って、無理矢理笑う理由がなんとなく分かった。

冗談言って、笑って…そうやって、ボロボロになって崩れてしまいそうな自分を必死に隠したいんだろな。
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