意地悪な彼が指輪をくれる理由
「ということは、まだ目標には届いてないってことよねぇ。もう25日過ぎたのに、大丈夫なの?」
「余計なお世話よ。おたくこそ大丈夫なの?」
お客様に聞こえない程度のボリュームで行われる小さないがみ合い。
私は彼女らのコソコソ話がお客様に届かないよう仕事に専念する。
「いらっしゃいませ。どうぞご覧くださいませ」
ジュエリーショップらしく、上品に、落ち着いた声で。
ショーケースにはスポットライトに照らされ、七色に光り輝くダイヤモンド。
一人でも多くの人に、この美しさを見てほしい。
そして一人でも多くの人に、この輝きに幸せを感じてほしい。
婚約指輪や結婚指輪などのウェディング向けジュエリーのケースは、こちらから見ると右側にある。
私は瑛士と彼の恋人のために、ショーケースをいつもより念入りに磨いた。
瑛士が現れたのは、この日の夕方だった。
「いらっしゃいませ」
せっかく笑顔で迎えたというのに、瑛士は私の顔を見て吹き出しやがった。
「ぶはっ、いらっしゃいませだって」
スイッチが入ってしまった私は、ついつい仕事を忘れてしまう。
「笑うな! 店員なんだから普通でしょ!」
「だって真奈美がいらっしゃいませとか似合わねーじゃん」
「いらっしゃいませに似合わないもクソもないっつーの」
彼の来店早々、店長同士の戦いをはるかにしのぐ漫才を披露した私と瑛士は、祐子さんの咳払いによって口をつぐむ。