意地悪な彼が指輪をくれる理由
祐子さんは、いわゆるシングルマザーだ。
小学校に上がったばかりの女の子を一人で育てている。
マネージャーはいつも冷たいけれど、たまにこうして暖かい言葉をかけてくれたりもする。
……祐子さんには。
「でもやっぱり生意気よね」
祐子さんのこの言葉にゆっくりうなずき、私たちは本格的に今日の業務を開始することにした。
このフロアにはカジュアルなジュエリーショップが数店舗入っており、売り上げを競うライバルとしてしのぎを削っている。
各々少しずつターゲットの層がずれているのだが、我々ジュエルアリュールと同じく20代から30代の女性をメインターゲットにした店舗がもう一店舗、真横にある。
ブランド名はビジュ・プレリュード。
我々が最も意識している敵である。
「あ〜ら。おたくのイケメンマネージャーさん、今日はあっさり帰ったのね」
今日も右側から、ねちっこい声が聞こえてきた。
ビジュ・プレリュードの店長、笹塚さんだ。
この声に、祐子さんの顔つきが変わる。
困ったことに、笹塚さんと祐子さんは、超がつくほど仲が悪い。
「おかげさまで売り上げが目標に届きそうなんで、言うことがなかったみたいですぅ」
我が上司ながら、大人げない返しだ。