意地悪な彼が指輪をくれる理由

私たちは終電間際まで焼き鳥屋にいた。

お互いに今何をしているのかとか、これまでに何をしていただとか、どんな人と付き合っていたとか、そういうことをたくさん話した。

秀士先輩は世界でも名の知れた自動車メーカーに勤務しており、設計をしているのだとか。

2年前に瑛士が外車を買った時には、久々に本気でケンカしたらしい。

春に学生時代からずっと付き合っていた女性と別れて半年。

それ以来誰ともご縁がないという。

秀士先輩とこんなに話したのは初めてだ。

夢が叶ったようで、舞い上がっていたと思う。

「遅くまで付き合ってもらってごめんね」

「すっごく楽しかったです」

時計を見ると、12時半を過ぎている。

瑛士はもう眠ってしまっただろうか。

これから電話したら、おいでって言ってくれるだろうか。

「改札まで送らせて」

「いやいや、すぐそこですから」

「いいから」

優しい笑顔に誘われ、流される。

秀士先輩は私が改札を抜けホームに向かうまで、笑顔で私を見送ってくれた。

それと同時に、瑛士に連絡をするタイミングも、瑛士の部屋に向かうタイミングも、逃してしまった。

いずみと碧の結婚式当日まで、あと約1ヶ月。

それが終わったら、もう会えないかもしれないのに。



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