意地悪な彼が指輪をくれる理由
「お客様?」
レセプションの前で、支配人と書かれた名札を付けている男性に道を塞がれた。
足を止めざるを得なくなり、この爆発しそうな気持ちをどこへぶつけて良いかわからなくなる。
「そんなに急がれては転んでしまいます。お気をつけて」
支配人に優しい言葉をかけられ、張りつめていた気持ちが溶け出した私は、その場に泣き崩れた。
「倉田!」
追って来た秀士先輩に支えられ、立ち上がる。
「部屋を取ってある。とりあえず、少し休もう」
私はもう秀士先輩に体を預ける以外何もできなかった。
「残りは2515号室へお願いします」
「2515ですね。かしこまりました」
どうして部屋を取っているの?とか、先輩はこうなることがわかっていたの?とか、色々疑問に思うことはあったけれど、それらを気にしていられるほど、私の頭の容量は余っていない。
エレベーターの扉が開いた。
秀士先輩に腰を抱かれ、導かれるまま足を進める。
25と書かれたパネル、そして閉めるパネルがタッチされ、扉は音もなく閉まってゆく。
完全に閉じてしまう直前。
「真奈美!」
私を呼ぶ声と、ドンという重い音。
ハッとして顔を上げたけれど、無情にも扉は閉まり、私たちを上階へと運ぶ。
今のは、空耳?
それとも本物?
もうわけがわからない……。
瑛士も、秀士先輩も、私にどうしろっていうの?