意地悪な彼が指輪をくれる理由
私たちらしい余計な悪態を挟みながら、彼が当時とはまるで違う雰囲気を醸し出しているのを寂しく感じた。
舞い上がっている私と違って、彼には必死感がない。
昔はもっと、ムキになってぶつかってきていた。
大人になったからといえばそれまでだが、あのムキになっていた感じが私への気持ちだったのだと、今さら気づく。
「じゃー近いうちに見に行くわ。なんていう店?」
「ジュエルアリュール。横浜のMビル、1階に入ってる」
「1階か。わかった」
瑛士は携帯のメモアプリに「ジュエルアリュール、Mビル1階」と書き、待ち受け画面に貼り付けたのを見せてくれた。
ダイヤモンドの輝きに魅了されて始めたジュエリーショップ店員の仕事。
アルバイトだけど、中途半端な気持ちで働いているわけではない。
ジュエリーに関する知識も進んで学ぶし、自分の時給分くらいは売り上げられるよう努力している。
私が売ったジュエリーで、人が笑顔になってくれたら嬉しい。
そして瑛士には、過去に傷つけてしまった分、幸せになってほしい。
この時の私は、ただ純粋にそう思っていた。