意地悪な彼が指輪をくれる理由
私は碧を横目に、瑛士に向けて言葉を発する。
「碧、いずみにプロポーズしてないの」
もちろん、碧に聞こえるように、だ。
彼はびくりと肩を震わせた。
瑛士はわけがわからないとばかりに眉間にしわを寄せ、
「はぁ?」
と首を傾げる。
私はあくまで碧ではなく、瑛士に向けて告げる。
「プロポーズされてもいないのに、結婚なんてしたくないって泣いてた」
「でも入籍、もうすぐだろ。式場だって……」
「親に流されて予約したけど、キャンセルするそうよ」
碧は私たちから目を逸らしたまま、再び隣の縁石に座り込んでいる。
何も言わない彼への憤りをどこへぶつければいいのだろう。
持て余す感情を嗅ぎ取ったのか、瑛士は碧に見えないよう、私の肩をよしよしと撫で、手をキュッと握った。
いずみが悲しんでいる現状がすごく嫌で、腹立たしくて、悲しくて、悔しい。
だけどそれを上手に発散することができず、瑛士の手を握ったままポロポロと涙を流した。
「結婚するのにプロポーズがないなんて……。そんなの、一生の傷になるよ」
泣きながら鼻声で訴えたって説得力に欠けるかもしれない。
でも、いずみには幸せになってもらいたい。
「毎年結婚記念日が来る度に、ああ、私プロポーズされなかったなって残念な気持ちになるんだよ。一生だよ。私、いずみにそんな思いしてほしくない!」
怒りながら泣く情けない私にはもう、碧がどんな顔をしているかわからない。