意地悪な彼が指輪をくれる理由
ふと、瑛士の手が離れていった。
「真奈美」
顔を上げると、碧が立ち上がっている。
「こんなこと言うと、真奈美に殴られるかもしれないけどさ。正直、嫌だったんだ。改めてプロポーズするの」
「どうしてよ」
本当に殴りたくなったけれど、我慢。
碧はいつもの穏やかな声で、少しだけ恥ずかしそうに笑った。
「俺、過去に2回、いずみにプロポーズしてるからね」
「……え?」
嘘よ。
いずみはされてないって言ってたもん。
「最初は付き合う時。2回目はまあその、“ハジメテ”の時に」
「……もう10年以上前じゃん」
素敵なエピソードではあるけど、そんなの正式なプロポーズじゃない。
「うん、わかってる。だけど1回目も2回目も、いずみは俺にイエスとは言わなかった」
「ノーって言ったの?」
「1回目は“彼女にならなってあげる”、2回目は“気が早い”って言われたよ」
横からハハハと瑛士の笑い声がした。
「いずみらしいじゃん」
「だろ? でも、今回またイエス以外の返事が来てしまったら……」
「かなりのダメージだな」
プロポーズに失敗した男が、苦笑い。
「だから、できなかった。俺にとっては、プロポーズよりも確実にいずみと結婚することの方が大事だったんだ」