意地悪な彼が指輪をくれる理由
夜の学校に侵入するのは、思ったよりも容易かった。
ちゃんと街灯もついており、怖くもない。
ただ、今私たちがいるテニスコートは明かりが十分とは言えず、ラケット等を持ち込んでもプレイできそうにはない。
夕方までは後輩たちで賑わっていたのだろう。
しかし、今はとても静かだ。
コツ、コツ、コツ……。
遠くからリズミカルに足音が聞こえてきた。
「おい! 来たぞ!」
瑛士が小声で叫んだのを合図に、私も物陰に身を潜める。
コートには一人、碧が立っている。
「真奈美ー? どこー?」
校舎の方からいずみの声がした。
私は返事をせず、瑛士の横でじっとコートを見守る。
コツ、コツ、コツ……。
足音はだんだんこちらに近付いている。
期待と緊張が膨らんで、叫んでしまいたい。
でも、じっと我慢。
「真奈美ー?」
コツ、コツ、コツ……コツ。
足音が止まった。
「……碧」
いずみは状況を理解し、隠れている私たちに聞こえるほど大きなため息をついた。
「やられたって感じね」
「俺が呼んだって来てくれないだろうから、真奈美に頼んだんだ」
「そうね。碧に呼ばれてたら来なかったと思う」