実は、彼女はご主人様でした。
真人の瞳が見開かれる。


桜が舞い散る中、赤い着物を着た桜雪が微笑みながら振り向いている。その視線は優しげだが、どことなく悲しみを感じる。そして、ついに桜が全て散ってしまい、裸になった木に手を当てながら桜雪が何かを呟くと、途端にその桜木は老木となり、枯れてしまう。


桜雪に関するビジョンが真人の脳裏に映り込んだ。


真人には不思議な能力がある。


他人のビジョンが見えること。


ただ、このビジョンは他人から言えば既視感であり、未来が見えるわけでも、その人の過去が見えるわけでもない。


ただ他人が見た既視感が一瞬だけ見えるだけだ。


けれど、既視感と言うことは、何かしらその人と関わりがあると言うことだ。
 

桜雪が真人の見たビジョンとどう関わりがあるのか、時代背景も違って見えた風景の中、どう関連付けて考えられるか、真人は首を傾げた。



「分からない…」



廊下の窓際に移動すると、開いていた窓から見える景色を眺める。そこには、先ほど呼びだされて男子生徒について行った桜雪の姿があった。


深々と男子生徒に頭を下げている。


あまりにも丁寧なお辞儀に、相手の男子生徒も戸惑っている。そしてついに、男子生徒は桜雪から逃げ出すように姿を消した。
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