実は、彼女はご主人様でした。

「桜雪、心中は未遂じゃないのか？今、両親も桜雪も生きているだろう」

「形的には未遂なのかもしれないな」

「形的？」

「心は既に崩壊している。家族の中で崩壊していても普通だと言えるのは、奔放に生きてきた父親だけだろう。そして、何事もなくいつも通りに過ごせているからか、今の異様さには全く興味と言いうか、見る気もないようだ」

「……それは桜雪も…？」

「そうだ。確かに桜雪の前世は私だが、…すぐには人の世に出ることが出来ない。本来なら人として産まれることは出来ないからな」

「どうして？」

「………」



テンポよく繰り広げられていた会話が突然止まった。


桜雪は言葉を呑みこみ、黙り込んでいる。



「今更話さないなんてことはないよ」

「…分かっている」

「じゃ、話して」

「………私は人に殺され、人を殺し続けた。正確には、私を殺した人と、その血を受け継ぐものを殺し続けたのだ。それは呪いとも言えるかもしれない。当然、人として再び世に出ることは叶わないだろう。そして時を重ね、人となることはできないと覚悟はしていたはずなのに、再びこの世を生きたくなった。そんな時、私の魂の一部を持つ桜雪を見つけた。美しい娘だが、家庭環境は最悪で、結局心中に巻き込まれた。私は彼女の側にいたが、どうすることも出来ない。薄れゆく意識の中、彼女が思い描いたことは幸せだった」

「幸せ…か…」

「あぁ、そうだ。不思議だよな。魂の一部であり、私自身もいる。彼女には前世の記憶はないはずなのに、願うことは同じだった。だから私は桜雪を助けるために、彼女の中に入ったのだ」

「………」

「だから…そうだな…真人の好きになった桜雪と、今目の前にいる桜雪は違うことになる」

「……なるほど。けど、その桜雪はもう戻ってこないんだろう」

「…可能性は少ないと言っただけだ」

「どういうこと？」

「桜雪自身が望んでいない。体が回復すれば返すとは何度も話していたのに、なぜか桜雪はそれを拒む」