実は、彼女はご主人様でした。
「もう少し、このままでいさせてよ」

「え、えぇっ!?」

「最後、なんでしょ」

「………」



 “最後”の言葉に、桜雪も自身の手を、真人の背中にゆっくりと回した。



「真人、一応言っておくが、両親見ているぞ」

「知ってる。けど、反応は変わらないんだろ」

「まぁ…そうだが…」

「気にしない。後5分!」



寝坊した時に言うような言葉に、桜雪は吹き出すと、真人の胸に顔を埋めた。



「5分は長いな、そろそろ始めないと、お前に桜雪を会わせるのが遅くなってしまう」

「え…」

「私は早く本当の桜雪をお前に会わせてやりたいのだ。一目惚れするくらいだ。きっと気に入る」
 


真人から離れ、向けられた笑顔にはもう、先ほど見せていた寂しげな表情はなかった。

覚悟を決めたように凛としている。


その表情を見た真人は、それ以上求めることはせずに桜雪の言葉に従った。



「じゃ、俺は両親の既視感を呼びだせばいいんだな?」

「あぁ、その通りだ」

「分かった」

「……真人…両親においては、先生の時と同じようにはいかない。これだけは言っておく」

「どういうことだ?」



先生の時でさえ、一筋縄ではいっていない。それ以上と言うことか。
だが、真人には想像もつかない。
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