実は、彼女はご主人様でした。
父親の口元が震え、体から力が抜けていく。そしてその場に座り込んだ父親に、桜雪はついに父親の口から黒い部分を掴み取った。

抵抗なく大きく長い黒い部分が開かれた口から出ていく。


前世でも父親は、桜雪の父親だった。


そして、今の父親が考えていたことと同じように、自身の幸せのために家族を犠牲にするところも変わらない。


因果は巡るのか。


巡っていた負の感情を抜き取られると、父親の体は鈍い音を響かせながら力なく床に転がった。目は虚ろで何を見ているのかは分からない。だが、時折目を動かしてはニヤニヤと笑っている。

先程まで達者に口を動かしていたのが嘘みたいな光景だった。

そして桜雪はもう一度母親に掌をかざし、残りの負の感情を抜き取った。



「なぜ、母親は二度取るんだ?」



父親のように連続して二度取れば手間は省けたはず。
だけど、手間を掛けてまでやる理由があるから、こうしているのか。
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