実は、彼女はご主人様でした。
「母親は精神がもたないからだ」

「もたない?」

「母親もまた前世で母親だった。彼女は自分を一番に愛している。小さかった私に微笑みかけてくれることも、優しくしてくれることもあったが、それは全て世間体や、自分を良く見せるための行動だった。これは前世でも同じ。この力を持っていることを疎ましく思い、時には嫉妬もしていた。そして、周りから追われるようになると、他人ごとのように振舞う。つまり、私は娘として思われていなかった。父親の言いなりとなり、自分が痛い目を見ないように時を過ごす。前世で私が見た母親は…笑っていたよ。視界が赤く染まりながらもあの顔は現在になっても忘れることはできない。それに、今も性格はそのままだしな」



父親とは違った母親の負の感情は細く長いモノ。抜き取られていけばいくほど母親の笑顔は清々しくなっていき、全てがなくなると、瞳はそのままに力なく倒れると、そのまま動かなくなった。

両親の負の感情を吸収し終えた桜雪は、一呼吸置き、真人がいる方向へ体を向けた。



「桜雪…」

「真人…これで…本当の桜雪に会えるな…」



桜雪は笑顔を見せるが、その顔は青く、決して体調がいいようには思えない。
真人は慌てて桜雪の側に行くと、両手で体を支えた。



「桜雪、大丈夫?」

「…何を…言っている…大丈夫だ。きっと力を連続して使ったからかも…な…」



声を絞り出し真人の言葉に答えた後、そのまま真人の支えに身を任せ、桜雪は気を失った。
< 98 / 155 >

この作品をシェア

pagetop