四竜帝の大陸【赤の大陸編】
バイロイトの声は、かすれていた。
自分の考えに驚愕以上に恐怖したのだろう。

「<監視者>に娘がいるはずがないよ。竜と人との間に子は出来ない」

顔立ちだけで推測するならば、血縁者であっても不思議は無い。
でも、それは有り得ない。
竜族の雄が人間の女を孕ませられないということを、僕は身をもって知っている。

「しかしっ、あの方は寿命だけでなく術式を行使できるなど、我々とは違う点も多い……同じように考えて良いのでしょうか!?」

先代陛下の繁殖実験に使われていた僕は、『仕事』として数え切れないほどの人間の女に“種付け作業”をした。
結果、人間の女は一人も妊娠しなかった。
その後、竜族のミルミラとの間にはなんの問題も無く娘を得たのだから、僕の雄としての機能は正常だ。

「バイロイト。竜と人は交じわれるが、雑じらない」
「しかしセレ、万が一……」

竜族の僕が人間の女を孕ませられなかったのは、犬と鳥の間に子が出来ないと同じくらい当然のことだ……狂信者のように無意味な実験にのめり込んでいたあの時の陛下は、どこかが壊れてしまっていたのだろう。
 まともな思考回路を維持していたら、竜族と人間の混血なんて考えるはずがない。

「バイロイト、術士っていうのは容姿を偽ることもあ……」

僕がバイロイトにかけた言葉は、耳に刺さるような甲高い声に遮られた。

「あひゃひゃひゃぁああ! なぁああにをぉおおお、こそこそお話ししてるのぉおおお? 逃げる相談かなぁああ? あひゃひゃひゃぁあっ、無駄無駄無駄無駄ぁあああ!!」

小さな手で成人男性の頭部を掴んで振り回す少女は、なんとも異様だった。
もっとも、導師(イマーム)は人間の平均寿命以上の期間を生きてるはずだから、この見た目はなんらかの術式によるものであって、少女のはずがない。

「あひゃあひゃあひゃひゃひゃぁあああ! アイツもコイツもソイツもぐっちゃぐちゃにしちゃおっかなぁあああ!」 

振り回されるシャゼリズ・ゾペロは、苦痛に顔を歪めながらも抵抗せずにされるがままだ。
その姿が、この二人力関係を僕達にはっきりと教えてくれた。
導師にとって、シャゼリズ・ゾペロは“モノ”であり、それはたいした価値の無い“モノ”なのだろう。
いくらでも替えのある、無価値な“モノ”……。








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